1.概要
糖尿病とは、なんらかの原因でインスリンの働きが悪くなることで、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖)が慢性的に高い状態となる疾患のことです。日本では1,000万人ほどが糖尿病に罹患していると推定されています。
糖尿病を罹患されている方の体内では、インスリンの分泌量が減少したり、インスリンの効果が弱くなったりするため、血糖値が高い状態が続くようになります。この状態が長期間に及ぶと全身の血管に障害が起こるようになり、重症化すると失明・腎不全・足の切断などの合併症や、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすことがあります。
一方で、糖尿病と診断された場合でも、治療により良好な血糖コントロールができていれば普通の人と変わらない健康な生活を送ることができます。糖尿病の治療には周囲の病気や治療への正しい理解やサポートが得られる環境づくりも大切です。
しかし、社会の糖尿病に対するスティグマ(負の烙印)に多くの患者がストレスを感じているのが現状としてあります。そのため、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病をもつ人が病気を隠したりせずに安心して生活を送れる社会の実現を目指す活動(アドボカシー活動)を始めました。この活動では、一般の人に向けて糖尿病に関する正しい知識を広めるために、偏見や差別をなくすための啓蒙を行っています。
2.原因・分類
糖尿病の原因は、血糖値を降下させる作用のある「インスリン」というホルモンの分泌量が低下したり、効果が弱くなったりすることです。
インスリンの分泌量や効果に異常が生じる原因としては、高脂肪・高カロリー・食物繊維不足などの食生活や、運動不足、ストレス、睡眠不足、喫煙習慣などの生活習慣の乱れが挙げられます。このような生活習慣の乱れが主な原因となって発症する糖尿病を「2型糖尿病」と呼び、糖尿病患者の9割以上を占めるとされています。
一方、糖尿病の中には免疫の異常によりインスリンを産生する膵臓の細胞が破壊されることで発症する「1型糖尿病」と呼ばれる病型もあります。生活習慣の乱れなどは発症に関与しないものの、明確な発症メカニズムは解明されていません。
そのほか、妊娠をきっかけに発症する妊娠糖尿病、膵炎・膵がんなど膵臓の病気で発症する続発性糖尿病などもあります。
3.症状
糖尿病を発症していても、多くは自覚症状がないとされています。ただし、著明な高血糖が持続している場合には、喉の渇きや尿量増加、倦怠感、体重減少などが現れるケースもあります。
また、血糖値が高い状態が続くと血管が傷つけられてしまうことが分かっています。その結果、目や腎臓、神経などにつながる血管が障害を受けることで糖尿病網膜症、腎不全、末梢神経障害などを引き起こすことがあります。
そして、最悪の場合には失明、人工透析、足の切断など、日常生活に極めて大きな支障をきたす状態に陥る可能性があります。また、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクも非常に高くなります。
ほかにも高血糖が続くと免疫力が低下するために感染症にかかりやすくなり、肺炎や尿路感染症などが重症化して命に関わる状態に陥るケースも少なくありません。
4.検査・診断
糖尿病が疑われるときは次のような検査が行われます。
(1)血液検査
血糖値やHbA1c(過去1~2か月の血糖値の状態を反映する値)を調べるほか、インスリンの分泌能力などを評価することも可能です。また、1型糖尿病が疑われる場合はGAD抗体などの自己抗体の検索も行われます。
(2)経口ブドウ糖負荷試験
早朝の空腹時に一定量の糖分が含まれた飲料を摂取し、摂取前後の血糖値の変化を調べる検査です。糖尿病を発症すると空腹時の血糖値が高くなったり、摂取後の血糖値の下がりが悪くなったりするといった特徴的な結果が見られるため、糖尿病の確定診断に用いられる検査のひとつとなっています。
(3)合併症の有無を調べる検査
糖尿病と診断された場合は、網膜の状態を調べる眼底検査、血液検査や尿検査で腎機能検査、末梢神経障害の状態を測る検査、動脈硬化の程度を調べる検査などが必要に応じて行われます。
5.治療
糖尿病と診断された場合は次のような治療が行われます。
(1)食事・運動療法
生活習慣の乱れが大きく関与することが多い2型糖尿病では、第一歩として原因となる食生活や運動習慣を正すための生活指導が行われます。発見された時点で早急な治療を要する重症な場合を除き、1~2か月ほど生活改善を行ったうえで薬物療法など次のステップの治療に進むか否かを判断するのが一般的です。
(2)インスリン以外の薬物療法
食事・運動療法のみでは血糖値が十分に下がらない場合には薬物療法が行われます。血糖値を下げる薬には多くの種類の飲み薬や注射薬(GLP-1受容体作動薬)があり、それぞれの患者様に合うタイプや量を個別に決めていきます。
(3)インスリン治療
インスリンの分泌量が大幅に低下している1型糖尿病、インスリン以外の薬物療法で十分にコントロールができない2型糖尿病、胎児への影響のため他の薬物治療ができない妊娠糖尿病などでは、インスリンの自己注射による治療が行われます。
6.予防
免疫の異常による1型糖尿病を予防する方法は現時点ではないとされています。一方で、2型糖尿病や妊娠糖尿病は問題となる生活習慣を改善することで発症や悪化をある程度予防することが可能です。規則正しい食生活、運動を心がけ、ストレスや喫煙習慣など生活上の習慣に注意するようにしましょう。