1.概要
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、主に睡眠中に空気の通り道である上気道が狭くなることによって無呼吸状態(10秒以上呼吸が止まること)と大きないびきを繰り返す病気のことです。
比較的頻度の高い病気であり成人男性の3~7%、成人女性の2~5%程度に見られると言われていますが、良質な睡眠が妨げられることで日中の眠気による生産性の低下や事故などにつながりやすいことが問題となっています。また、睡眠中に体内の酸素量が不足しがちになることで全身のさまざまな部位に負担をかけ、心筋梗塞や脳卒中など命に関わる合併症を引き起こしやすくなることも分かっています。
主な原因は肥満による喉周りの脂肪です。一方で、顎が小さい、舌が大きい、扁桃が大きいといった生まれつきの身体的特徴や慢性的な鼻炎など耳鼻科領域の病気が原因となることもあります。
睡眠時無呼吸症候群は重度な合併症を引き起こすこともあるため、できるだけ早く原因となる肥満の改善や治療を行うことが必要です。
2.原因
睡眠無呼吸症候群は、睡眠中の無呼吸の原因によって「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」と「中枢性睡眠時無呼吸(CSA)」に分類されます。
(1)閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)
睡眠中に空気の通り道である上気道が狭くなったり、閉塞したりすることで発症します。主な原因は肥満による首や喉周りの脂肪です。首周りに脂肪が多いと仰向けになると重力で気道が圧迫されるため、上気道のスペースが狭くなります。生まれつき舌や扁桃、アデノイドが大きい場合や顎自体が小さいことも原因となります。
成人の閉塞性睡眠時無呼吸は肥満によるものが大部分を占めますが、小児では生まれつきの身体的特徴が原因になることもあります。他にも慢性鼻炎や鼻中隔弯曲症など、鼻の病気によって空気の通り道が狭くなることも原因として挙げられます。
また、中等症以上の発症頻度が閉経前の女性で1.5%である一方で閉経後は9.6%と、閉経後に発症リスクが上がるという報告もあります。
(2)中枢性睡眠時無呼吸(CSA)
呼吸をつかさどる延髄の「呼吸中枢」の異常によって正常な呼吸運動ができなくなり発症するタイプです。はっきりとした発症の原因は分からないことも多いですが、心不全や腎不全を発症しているケース、脳梗塞や脳出血の後遺症、生まれつき脳に形質異常があるケースなどで発症しやすいとされています。
3.症状
睡眠時無呼吸症候群の特徴は、睡眠中の強いいびきと無呼吸状態を繰り返すことです。このため、発症すると睡眠が浅くなり、日中の眠気や起床時の頭痛などが生じます。また、症状が長期間にわたると日中の倦怠感や集中力の低下、注意力散漫となり居眠りなどによって思わぬ事故を起こしやすくなるとされています。
さらに、高血圧や脳卒中、心筋梗塞が起こるリスクが上昇することが分かっています。特に1時間の睡眠中に無呼吸または低呼吸が30回以上あるような重症例では、心臓や脳の病気になる危険性が5倍にもなることが明らかになっています。
4.検査・診断
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、次のような検査が行われます。
(1)睡眠時ポリグラフ検査
睡眠の質や睡眠中の呼吸状態を調べる検査です。自宅で実施可能な簡易的な検査と入院が必要な精密検査があり、一般的には簡易検査を行って睡眠時無呼吸症候群の疑いが強い場合に精密検査が行われます。
簡易検査は、いびきの状態や空気の流れを感知するセンサーを鼻の下に、血液中の酸素濃度を測る機器を指に装着した状態で眠り、睡眠中の呼吸状態や上気道の狭窄の有無を評価する検査です。
精密検査では医療機関に入院した上で、脳波や心電図、眼球や胸の動き、口と鼻の空気の流れ、血液中の酸素濃度を測るセンサーを装着した状態で眠り、睡眠中の姿勢やいびきの音などを調べます。簡易検査よりも詳しく評価するが可能です。最近では在宅での実施も可能となってきました。
(2)画像検査
睡眠時無呼吸症候群は喉や鼻、舌の形態的な異常によって生じることもあるため、X線検査やCT検査などで器質的な異常がないことを確かめることもあります。
5.治療
睡眠時無呼吸症候群と診断された場合は、重症度によって次のような治療が行われます。
(1)経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)
睡眠中にマスクから強制的に空気を送り込んで狭くなった気道を広げる治療です。この治療を行うことで、心筋梗塞や脳卒中などを発症する危険性を通常と同程度まで低下させることが知られており、全国的にも広く行われています。
適応となるのは睡眠ポリグラフ検査で睡眠時1時間あたり無呼吸や低呼吸になった回数(AHI)が20回以上で、かつ日中に眠気などを自覚しているケースです。簡易検査でAHIが40以上であり、かつ自覚症状のある場合にも適応となります。
(2)マウスピース装着
主に軽度~中等度の睡眠時無呼吸に対して適応となります。特に顎が小さい、舌が大きいなどの原因で発症している場合は、下顎を前方へ移動させるようなマウスピースの装着が行われることがあります。
(3)手術
アデノイドや扁桃肥大、鼻中隔彎曲症などの器質的な異常が原因である場合は、扁桃摘出術などその原因を改善するための手術が行われることもあります。
また、肥満などによって気道が狭くなっているケースでは、口蓋垂など喉の一部を切除する口蓋垂軟口蓋咽頭形成術が行われることもありますが、手術後に副症状(患部の狭窄や傷あと)について報告もあるため強く推奨はされていません。
(4)生活指導
睡眠時無呼吸症候群の多くは肥満によるものであるため、減量を目指した食生活の改善や運動習慣の定着などの生活指導が行われるのが一般的です。